2021年5月23日日曜日

SNSにおいてリテラシーは有効か?




以前SNSにおけるナッジに関する論文についてご紹介しましたが、今回もSNSに関連する論文を紹介していきます。
今回は自分が大学院生の時に書いた論文を挙げたいと思います。「SNSを使っている時の情報に対する行動や評価とリテラシーとの関連」について調べた内容となっています。



■背景
SNSは非常に便利なツールで利用率も年々増加している一方、問題点として誤情報の拡散とそれによる社会への悪影響が指摘されています。
近年では常磐道あおり運転事件のように、SNS上で拡散されたデマにより事件と無関係の方が誹謗中傷を受けてしまったという事例もあるなど、SNS上での誤情報の拡散は社会的な問題になっていると言っても過言ではないと思います。

SNS上で誤情報が拡散することによる問題への対策として、総務省はフェイクニュースや誤情報への対策の在り方を示しています。その中で「ICTリテラシーの向上」を具体例の1つに挙げています(『プラットフォームサービスに関する研究会 最終報告書』)。
実際、「安易に情報を鵜呑みにしないようにしましょう」「ネットリテラシーを持つようにしましょう」とテレビやネット上で呼びかけられている場面もよく目にするようになりました。

しかし、SNS利用に関するリテラシーを持っていることと、実際にSNSを使っている時に誤情報であることを見極めようとするか・RTするかといった誤情報への行動・評価との間の関連性については不透明な部分もあります

今回ご紹介する論文はこの不透明な部分を明らかにするために、被験者実験を行って調査を行っています。


■実験概要
論文において、実験は以下の2種類行われています:
  1. SNS上の情報に対する被験者の行動・評価と、被験者のリテラシーとの関連を調べる実験
  2. (実験1の結果を受けて実験2を実施)
    SNS上の情報に対する被験者の行動・評価と被験者のリテラシーとの関連を調べる際に、リプライの確認行動を促すナッジを適用した被験者グループと非適用のグループとの間でどのような違いがみられるかを調べる実験

実験で使用したSNSについて:
実験を意識していない自然な状態での被験者の行動をみるために、実験用に新たにSNSを作って実験を実施しています。
研究室に呼んで「実験を開始します」と言ってPCやスマホを操作してもらうよりも、好きな場所で実験に参加できた方が自然な状態で実験を実施できるため、またTwitterなどの既存のSNSでは被験者の行動を記録したりTLの状態など実験環境を統一しにくい、という課題もあるため実験用にSNSを作成し、研究室のメンバーに使用してもらいました。



思考特性の評価について:
被験者のリテラシー・思考特性の測定については、関連研究にて開発された「ウェブアクセスリテラシー尺度」を用いて測定しています。
ウェブアクセスリテラシーは「検索エンジンなどの情報アクセスシステムを上手く使いながら情報を批判的に精査し、正確なウェブ情報を収集するための能力」と定義されているもので、このウェブアクセスリテラシーを測定するのがウェブアクセスリテラシー尺度です。
ウェブアクセスリテラシー尺度を構成する要素は情報リテラシー及び批判的思考と強く関連しているため、この尺度を用いることで情報リテラシーや批判的思考に関連する能力を幅広く評価することもできると考えられます。

ナッジについて:
ナッジは行動経済学の理論の一つで「人々が自発的に望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法」のことです(詳細は以前の記事にも記述しているのでそちらをご参考頂ければと思います)。
今回の論文では、「投稿のリプライの確認行動を促すナッジ」を2種類提案しています。1つは「投稿のリプライ部分をハイライト表示する(背景を黄色で表示する)ナッジ」、もう1つは「矢印のアイコンを用いて、投稿を表示している時に画面下へスクロールを促すナッジ」です。



実験2では、被験者のうち半分をナッジグループ(投稿にて2種類のナッジが適用される)、もう半分をコントロールグループ(ナッジが適用されない)に分けて実験し、SNSにおけるナッジの有効性とナッジが情報の精査・評価行動にどのような影響を与えるかについて検証を行なっています。

実験の流れとしては、それぞれ

実験1:
実験用SNSに誤情報とそれ以外の情報をそれぞれ投稿
→ それを被験者にみてもらう
→ 情報を見た後にアンケート及びウェブアクセスリテラシー尺度に回答してもらい、被験者の思考特性を評価
→ 実験用SNSのログや事後アンケートへの回答結果とウェブアクセスリテラシー尺度の測定結果を元に、被験者の行動と思考特性との関連を分析する

実験2:
実験用SNSに誤情報とそれ以外の情報をそれぞれ投稿
→ それを被験者にみてもらう(ナッジグループは投稿にナッジが適用されている。コントロールグループについては通常の投稿が表示される)
→ 情報を見た後にアンケート及びウェブアクセスリテラシー尺度に回答してもらい、被験者の思考特性を評価
→ 実験用SNSのログや事後アンケートへの回答結果、セッションリプレイによる被験者の操作の様子の確認とウェブアクセスリテラシー尺度の測定結果を元に、被験者の行動と思考特性との関連を分析する

のようになっています。

補足:セッションリプレイについて
実験2では被験者が実験用SNSを利用している時の操作画面を「LogRocket」というセッションリプレイのサービスを用いて記録・確認しています。
セッションリプレイとはウェブ画面を操作している時のログを記録し、それを元に操作の様子を動画形式で再現するサービスです。これを用いることで、スクリーンレコード等のツールを使用しなくとも被験者の操作画面を確認することができます。


実験用SNS上で情報を見ている様子をセッションリプレイで記録できるようにするために、ツイートのイメージマップを作成してそれをiframeウィンドウ上で表示させる、という回避策をとっています。
実験1では被験者の行動を実験用SNSの断片的なログと事後アンケートによる自己申告で確認していたため、確認できる範囲には限界がありました。実験2ではこの課題をセッションリプレイを用いて解決しています。


■結果
実験1と実験2より、以下の結果が得られました:

思考特性と情報の精査・評価行動との間に関連はみられなかった
ウェブアクセスリテラシースコアとSNS上の情報に対する被験者の行動・評価との間には関連が見られませんでした。これは、情報に対して受動的に触れることが多いSNSにおいては、情報リテラシーや批判的思考といった思考特性が必ずしも有効に働くとは言えないことが考えられます

「情報の精査行動やSNS上で情報を批判的に分析するための方法の理解」は、情報に対する評価との間で関連がみられた
ウェブアクセスリテラシー尺度にSNS上の情報に対する行動や態度をみるための項目を追加しており、その中の「内容特性に関連したSNS上の投稿の信憑性検証戦略」という下位尺度のスコアと、誤情報以外の情報に対する評価及びリプライを確認したツイート数との間に関連がみられました。
この下位尺度が表すのは「SNSにおけるウェブ情報や情報アクセスシステムの特性を踏まえた情報分析ノウハウや注意事項を知っているかどうか」ということです。
このことから、情報に対する評価やリプライの確認といった情報の精査行動に対しては、SNS 利用の習慣やSNSにおけるウェブ情報や情報アクセスシステムの特性を踏まえた情報分析ノウハウや注意事項を知っているかどうかが大きく影響すると考えられます。

ウェブとSNSにおいて思考特性が異なる可能性がある
ウェブアクセスリテラシー尺度を用いて、ウェブにおける思考特性とSNS上の投稿に対する思考特性についてそれぞれ測定しました。ウェブとSNSにおけるスコアの平均に差があるかについてt検定を行なったところ、実験2にて5%水準で有意差が認められました(実験1では有意傾向)。
これは、ウェブは目的を持って調べるなど能動的に利用することが多い一方、SNSではTLを眺めたりと受動的に利用することが多く、こうしたウェブとSNSでの情報の触れ方の違いが関係していると考えられます。

「リプライの確認行動を促すナッジ」には誤情報に対する適切な評価を促す効果がある可能性がある
実験2にてリプライの確認行動を促すナッジの有効性について検証していました。ナッジグループとコントロールグループで行動を比較したところ、ナッジグループの方がリプライを確認したツイート数が多いことが分かりました。
また全体を通して誤情報に対する評価を見たとき、リプライを確認したものについては信頼できないと評価している傾向がみられました。
これらのことから、論文にて提案された2種類のナッジはリプライの確認行動を促す効果があることと、リプライの確認行動を促すナッジには誤情報に対する適切な評価を促すことに対して有効なアプローチになる可能性があることが分かりました。


SNSにおいて誤情報に騙されない・安易に拡散しないためにはネットリテラシーを持っていないといけないとよく言われますが、SNS利用時は受動的な状態にあることが多いため、こうした思考特性が必ずしも有効に働くとは言えない可能性があります

SNS上における誤情報の拡散問題に対するアプローチとしては、リテラシー意識を高めるというよりも「誤情報であるかどうかを見極めるには具体的に情報のどこを見ればいいのか・どう行動すればいいのか」を理解したり、ナッジを用いたりしてユーザーに情報をよく確認するよう促す・情報をよく確認するような習慣をつける、というように行動面にアプローチした方が効果的であるかもしれません

以上、今回取り上げた論文について説明させていただきました。最後まで読んでくださりありがとうございました!

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